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福岡高等裁判所 昭和24年(ネ)467号 判決

被控訴人等の仮処分申請(当審において附加した申請も含む。)を却下する。

訴訟の総費用は被控訴人等の負担とする。

二、控訴の趣旨

控訴代理人等は主文と同旨の判決を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決竝びに当審において新たに申請の趣旨として「本案判決確定に至るまで、控訴会社が昭和二十三年八月十六日附を以つて被控訴人等に対して為した解雇の意思表示の効力を停止し、被控訴人等がそれぞれ控訴会社の従業員である仮りの地位を定める。

控訴人は被控訴人等に対する合計五十五万二千八百四円を、本件仮処分控訴判決言渡の日から五日以内に、被控訴人等の代理人弁護士野尻昌次に仮りに支払え。訴訟の総費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

三、事  実

当事者双方の事実上の陳述及び疏明の提出援用認否は、被控訴人等代理人において「原判決書三枚目裏二行の『右規約第十七条に違反する。』とあるのを『右規約第十七条及び第二十条に違反する。』と補充する。同四枚目表六行の次に『仮りに組合解散の議案を、会期前五日間の猶予期間をおかずに規約第十八条但書の規定によつて招集した臨時総会に附議できるものとして、なおそれが当該総会の議案であることは予め通告することを要するものであり、仮りにこれをも要しないとしても、その予告すら為し得ないほどの緊急な場合でなければならない。ところで、本件解散議案は委員会の議を経ていないばかりでなく、右第十八条但書の緊急を要する場合のものでもないのであり、更らに本件組合解散の原因目的は、組合員中の一、二名の者に関するもので、これは規約第九条によつて処理すればよい問題であつて、組合の消滅をきたす組合解散の事由とはなり得なかつたものである。従つて規約第十八条及び第九条に違反するものである。』と補充する。同五枚目表四行の次に『以上いずれも理由がないとしても、該臨時総会において突如解散問題を議題として議決するに至らしめたのは、被控訴人等が日常組合運動に熱心であり、あるいは共産党員又は共産主義者であるために、その解雇を欲する控訴会社に解雇の機会を与え、組合を御用組合化させる目的の下に、控訴会社と通ずる組合の御用幹部が策動して、無智な組合員を錯誤におちいらしめた結果であつて、結局被控訴人等の思想の自由、労働者団結の権利を侵すために為したものであり、且つ、公序良俗に反する行為であるから、憲法第十九条第二十八条民法第九十条に違反する。』と補充する。同六枚目表八行の次に『仮りに組合解散が有効であつたとしても、解散当時の労働協約はその第十七条を以つて本協約は新協約成立に至るまで効力を有するものと定めているのであり、直ちに新組合が結成され、同時に新協約が締結されることは、控訴会社及び従業員間に解散当時から既に予定されたところであるから、労働協約の効力は、解散によつて消滅させないで、新組合結成までこれを存続させる黙示の合意が成立していたものであつて、このことは、新組合の結成と同時に締結された新労働協約が、当時事実上存在した旧協約の内容に新協約の名目を附したのにすぎないものであることによつても明白であり、従つて本件解雇当時旧協約もしくはそれと同一内容の協約が存在していたものといわなければならない。仮りにそうでないとしても、少くとも、人事に関しては人事委員会を開いて決する旨の協約第七条の規範的部分は、消滅せずに存在していたものといえる。されば人事委員会を開かずに為した本件解雇は無効である。』と補充する。以上のように組合の解散及び被控訴人等の解雇はいずれも無効であるのに、控訴会社においては右解雇を理由に、昭和二十三年八月十七日以降被控訴人等の出勤就業を禁止していたのであるが、原審が右解雇処分は労働組合法(旧)第十一条違反の無効処分であると判定して、昭和二十四年五月十一日被控訴人等が仮りに控訴会社の従業員であるという地位を定める旨の判決をしたので、その翌日の昭和二十四年五月十二日から出勤するに至つたのである。被控訴人等の賃金は毎月十五日の締切り計算、すなわち前月の十六日から当月の十五日までを以つて一箇月とし、二十五日払いの月給制賃金であり、昭和二十三年八月十六日まで出勤した関係上九月は出勤就業したこととなり、控訴会社は九月分までの賃金を支払つているから、被控訴人等は昭和二十三年十月から翌年四月までの七箇月間、休業したこととなるのである。右休業はいうまでもなく専ら控訴会社の責に帰すべき事由によるものであるから、控訴会社は労働基準法第二十六条により、同法第十二条により平均賃金の百分の六十以上の休業手当を支払う義務を負うものである。ところで、右平均賃金は、被控訴人白井においては金八千九百十二円三十三銭、同上村においては金六千八百七十三円三十三銭、同川口においては金三千七百八円三十三銭、同金光においては金三千六百二十一円六十六銭、同菊川においては金四千四十九円八十銭、同佐藤においては金五千七百十二円三十三銭であり、前記七箇月間の休業手当は、白井においては金六万二千三百八十六円三十一銭、上村においては金四万八千百十三円三十一銭、川口においては金二万五千九百五十八円三十一銭、金光においては金二万五千三百五十一円六十二銭、菊川においては金二万八千三百四十八円六十銭、佐藤においては金二萬九千九百八十六円三十一銭となり、なお右休業手当に対しては、労働基準法第百十四条による右手当と同一額の附加金の支払を請求する。この外、昭和二十四年五月分から同年十二月分に至る間における被控訴人等の未受領の不足賃金は、白井においては金二万千二十七円、上村においては金一万九千九百十九円、川口においては金一万三千三十円、金光においては金一万百四十四円、菊川においては金一万四千五百七十一円、佐藤においては金一万三千八百二十五円である。以上被控訴人等が本件仮処分において仮りに支払を求める前記三口、すなわち休業手当、附加金、不足賃金の合計額は、白井においては金十四万五千七百九十九円六十二銭、上村においては金十一万六千百四十五円六十二銭、川口においては金六万四千九百四十六円六十二銭、金光においては金六万八百四十七円二十四銭、菊川においては金七万千二百六十八円二十銭、佐藤においては金九万三千七百九十九円六十二銭となり、以上総合計は金五十五万二千八百四円九十二銭である。よつて、その内金五十五萬二千八百四円の支払を求め、もし前記七箇月間の休業手当の請求が認容されないとすれば、右期間中に得べかりし賃金、すなわち白井にあつては金六万三千四百四十二円、上村にあつては金五万千九百八十三円、川口にあつては金二万九千八百五十一円、金光にあつては金二万八千三百九十一円、菊川にあつては金三万二千五百八十円、佐藤にあつては金四万二千二十四円の各賃金の支払、もしくは、右期間中の得べかりし利益の喪失による損害として、右各賃金同額の賠償を休業手当の支払に代えて求める。当審において控訴人の主張する第一((一)乃至(五))については、事実は否認し、その見解はいずれも否定する。第二の(一)中組合が昭和二十四年七月十日臨時総会を開いて、被控訴人等を組合に加入させない旨の決議をして、これを控訴会社に通告したとの事実は認めるけれども、その余は否認する。組合が右の決議をしてこれを控訴会社に通告したのは、つぎの理由によるものである。(1)原審仮処分判決によつて従業員たるの仮りの地位を定められた被控訴人等に対し、控訴会社は自由勤務を申し渡しながら、同人等が出勤することに不快感をいだいていたこと。(2)被控訴人等が昭和二十三年八月十三日の組合解散決議の効力ひいては現組合結成の法律上の効力を訴訟を以つて争つていること。右(1)の理由はきわめて不可解のものであるが、結局裁判によつて認められた被控訴人等の労働権を否定するものであり、右(2)の理由は、組合規約を厳守し、その厳正な運営を護るために、裁判所の判断に訴えることのできる組合員の組合に対する基本的権利義務や、憲法第三十二条の保障する訴権を否定するものであつて、法治主義民主国家の基本的秩序に反するものであるから、前記決議は無効である。のみならず、その決議の目的とするところは、被控訴人等が共産党員であつたり、組合運動に熱心であるため、かねてその解雇の機会をねらつていた控訴会社に対し、解雇の口実を与える底意の下に為したものであるから、憲法第十九条第二十八条民法第一条第九十条に違反する無効の行為である。第二の(二)中公務執行妨害事件関係の事実、及び被控訴人等に対しその主張のようなそれぞれの理由を以つてする新解雇の通知があつた事実は、いずれもこれを認めるけれども、その余は否認する。(1)よしや組合が右のような決議をして控訴会社にこれを通告したからとて、被控訴人等を解雇してはならないことは、被控訴人等が控訴会社の従業員たるの仮りの地位を定めた原審仮処分判決に基くものであるから、控訴会社において右決議及び通告を不問に附しても、組合に対して協約違反の責はないのであり、又組合においては控訴会社に対し解雇を要求しているのではないから、控訴会社としては組合に対し解雇するの義務を負うものでもないのである。(2)国民は裁判所の判決によつて有罪の宣告を受けるまでは、良民として処遇されなければならないことは憲法の保障する国民の基本的権利であり、新日本の体制秩序であるのに、被控訴人川口、菊川、佐藤等が単に犯罪の嫌疑を受けただけのことを以つて、就業規則に違反し、控訴会社の名誉を毀損したとすることは、以上の理を解さない暴論である。(3)新解雇を右の理由に結びつけたのは偽装であつて、その真の理由は旧解雇(本件解雇)と同様、被控訴人等が組合運動に熱心であり又共産党員であつたりすることに存するのであるから、憲法第十九条第二十八条労働基準法第三条民法第一条第九十条等に違反し無効であるばかりでなく、解雇手当の支払を伴わないものであるから、労働基準法第二十条に違反するものであり、更らに、労働協約第七条所定の人事委員会にはかり、その承認を得ていないから、この点からいつても無効であることは旧解雇の場合と同様である。」と述べた。(疎明省略)

控訴代理人等において

第一、控訴会社が昭和二十三年八月十六日附を以つて被控訴人等を解雇したのは、正当な理由に基くもので、もとより有効である。けだし使用者は、法令、協約、規則等に制限のない限り、固有の経営権に基き人事権を有し、正当な理由によつて従業員を解雇する自由を有するからである。(一)本件解雇は労働組合法(旧)第十一条違反ではない。すなわち(イ)被控訴人等には不正又は不都合な行為があつた。(ロ)被控訴人等は従業員の労働能率低下の原動力であつた。以上についての被控訴人各人の具体的事実はともかく、本件の最も重要な事実である白井提言について一言すると、組合は白井提言につき、同人が組合幹部の御用化を指摘したことを憤慨したのではなく、ただ組合内部を紛糾混乱させるような虚構な事実を無責任に放言し、公開の席上で提言する白井の軽卒とその作為的破壊的態度を責めたのである。その他白井及び川口等は勤務中労働意欲を低下させるような発言を為すなどの行為が多く、菊川は工場内に共産党の機関紙へツドライトを散布したりした。控訴会社としては、被控訴人等が組合活動に熱心であることは一向に差支えないのであるが、従業員としての本分を忘れ、闘争を事とし、他を煽動し、社内の平和をみだし、正当な範囲を超えて活動し、以つて業務能率を低下させることは困るのである。(ハ)控訴会社は当時非能率従業員を整理して人件費を節約する必要に迫られていた。それ故に非能率的非協力的な被控訴人等を会社及び組合の双方の利益のために解雇したのである。(二)本件解雇は労働協約違反ではない。控訴会社が旧組合と締結した労働協約は、旧組合が解散したため当事者の消滅によつて失効したものである。たとえその後に成立した新組合と控訴会社との間に、ほとんど同様の内容を有する労働協約を結んだからとて、特別の意思表示のない限り、前協約の効力を持続すべき理由はない。又協約当事者の一方が消滅したのであるから、いわゆる余後効の問題も生ずる余地がない。仮りに百歩をゆずり、前協約が失効しなかつたとしても、現実には人事委員会は設けられておらず、且つ解雇当時には組合自体が存在しなかつたのであるから、右協約第七条に『人事に関しては、人事委員会を設けて組合と協議して定める。』とあるけれども、これによるに由がなく、控訴会社はやむなく会社自身の良心的手続によつて解雇したまでのことである。(三)本件解雇は憲法違反でもなく、権利のらん用でもない。これについては、今更らここで論議する必要もないであろう。(四)本件解雇は労働基準法第二十条違反ではない。控訴会社より被控訴人等に対する業務上の給付の支払場所は、もとより会社である。債権者の行為を要する弁済については、弁済の準備を為したことを通知して受領を催告すれば足りるものであつて、同通知にもかかわらず被控訴人等がこれを受領しなかつたことによつて、供託の要件は備わつたのであるから、控訴会社が為した右解雇手当の供託は有効である。(五)本件解雇は労働組合法(旧)第十一条の脱法行為でもない。旧組合の解散と新組合の結成は、組合員の自主的な決議によるものであつて、控訴会社の干渉圧迫あるいは誘惑に基くものではない。徒らに煽動的な破壊的な二、三の急進的指導者の行為は、常に正当な組合活動であり、穏健な思慮的協調的な組合はことごとく御用組合であるというならば、労使間の紛争は絶える間とてなく、産業平和は期待すべくもない。右の旧組合の解散から新組合の結成に至る一連の組合活動は、単なる組合内部の軋轢ではなく、実に組合自身の脱皮であり、生長であり、団結権を擁護して使用者と対等の地位を確保しようとする組合の自覚の結実である。組合の浄化及び団結の強化を企図したのは、被控訴人等ではなく、組合自身であつたのである。ただ解雇の時期については、それがたまたま旧組合解散後新組合の結成前の空白期間中であつたことは事実であるが、控訴会社としては別に右期間に乘ずる意図もなく、又その必要もなかつたのである。第二、仮りに本件解雇が無効であるとしても、控訴会社は被控訴人等をつぎのような理由で更らに解雇したから、右新解雇は有効である。けだし仮処分判決によつて被控訴人等に与えられた従業員たる地位は、従来の従業員たる地位の仮定の存続であるから、新たな事由による解雇はもとより適法であるからである。(一)組合は昭和二十四年七月十日の臨時総会において、被控訴人等を組合に加入させないことを決議して、これを控訴会社に通告して来た。組合規約第五条によれば、従業員は組合に加入すべきことを規定しているから、右加入拒否の決議は、実質上同規約第九条の除名決議である。かくて控訴会社は労働協約第二条の『会社の従業員は組合員でなければならない。』との規定によつて、被控訴人等を解雇しなければならないことになる。(二)昭和二十四年九月八日の在日本朝鮮人連盟解散命令による同連盟熊本県本部接収の際、公務執行妨害により、被控訴人菊川及び佐藤は同日川口は同月十八日いずれも逮捕され、菊川は逃走中であるが、他の二名は熊本地方裁判所で審理中である。よつて控訴会社としては右同人等に対しては、就業規則の当該規定を適用して、懲戒解雇することを決定した。そこで控訴会社は昭和二十五年四月二十四日被控訴人等に対し、右(一)(二)の理由によつて改めて解雇する旨の通告を発したのである。第三、申請の趣旨訂正拡張の申立に対する答弁。(一)仮処分としては行きすぎであり、又請求の基礎に変更があるから、許さるべきではない。(二)仮りに許されるものとしても、仮処分判決は仮りの地位を定める一種の創設判決であり、其の効力は決して解雇処分当時に遡及するものではないから、解雇処分後原審の仮処分判決までの間、すなわち昭和二十三年九月から昭和二十四年五月十一日までの間の賃金の請求を為し得べきものではない。のみならず、右期間の賃金は不就業賃金でもあつてその請求は不当である。又仮りの地位にある者に対しては、使用者において必ずしも職務を与える義務はないのであるから、仮処分判決後は、基準賃金の支払だけを以つて足りるものである。(三)仮処分によつて被控訴人等に多額の金員を払渡すときは、将来控訴人が勝訴の判決を得てもその返還を受けることは不能であろうから、全く囘復することのできない損害を被るものである。この意味からしても、仮処分としてこのような多額の金員の支払を命ずべきものではない。しかも被控訴人等においては昭和二十四年五月十一日の仮処分判決後毎月日常生活に事かかない程度の基本給の支給を受けているのであるから、それを超える金員の請求は不当であろう。(四)賃金は労働基準法の規定により、直接本人に支払うべきものであり、代理人に支払うことは許されないのである。」と述べた。(疎明省略)

四、理  由

被控訴人等が控訴会社の従業員によつて組織された熊本電気鉄道労働組合(これは旧組合のことであるが、以下単に組合という。)の組合員であつて、被控訴人白井が輸送復興常任委員、同上村が執行委員兼企画調査部長、同川口が執行委員、同金光が委員、同菊川が調査部員、同佐藤が青年部委員であつた事実、右組合が昭和二十三年八月十三日の臨時組合員総会(以下単に総会という。)において組合解散の決議を為し、翌十四日熊本県知事に対し解散届出をした事実、同月十七日新組合が設立されて同月二十三日同知事に対しその旨の届出をした事実、及び同年八月十五日控訴会社が被控訴人等に対して同月十六日附の解雇辞令を送付した事実は、当事者間に争がない。

およそ労働者を対等の立場にまで高めることの意味は、使用者と対立闘争させるためではなくて、立場の低位からする労働者の使用者への協力が、いきおい奴隷の言葉と卑屈の態度を強い、かくて労働者の地位を一層低下させるものであるから、それとの力の均衡において、対等に協力させることにあるのである。すなわち、闘争のための強化ではなくて、平和確立のための強化であつて、争議行為は、右の協力を否定する者に対して向けられる平和確立のための武器である。そして争議行為は多数者のための武器であつて、多数者と遊離した一部少数者のための武器ではなく、又その武器は、あくまでも秩序の尊重という限界で行使されなければならないものである。このことは労働関係法規の全般に通ずる指導理念であり、この理念に反する行動者は、自ら労働関係法規による保護救済を放棄するものであつて、その保護に値いしないものといわなければならない。

ところで、成立に争のない甲第五号証、原審における被申請組合代表者斎藤留蔵(一囘)原審竝に当審証人魚住進、大賀春光、当審証人大津勇、左山学、田中敬治、林弘、永野今朝雄、古河三二、斎藤留蔵の各証言及び右証人大津勇の証言によつて成立の真正を認めらるる乙第十三号証によれば、右昭和二十三年八月十三日の総会における議案は、七月分暫定給与の件、七月以降の本格的賃金要求の件及び組合内部の紛糾問題であつて、これらの審議は緊急を要し、殊に組合内部の紛糾問題は、組合自体の存廃に関する緊急事項であり、猶予を許されないまでの事態であつたので、右総会においてこれを特に第一議案として審議した事実、右総会の決議による組合の解散は、一部組合員が控訴会社によつて買収され、組合の御用化に暗躍しているとなす被控訴人白井の提言と、これに同調する他の被控訴人等の言動に端を発し、右提言に関し白井等を査問するために右総会をもつに至つた組合員多数者が、右第一議案の審議に際し、多数者の意思を代表しないで、徒らに組合の攪乱を策する被控訴人等一部組合幹部とのつながりを断ち、この機会に新組合を結成して、それにより多数者の意識を自律的に高めようとの念願に出たものであり、控訴会社の干渉圧迫あるいは誘惑によるものではなく、組合の脱皮生長の過程における一つの自覚的転換であつた事実、控訴会社が同月十六日附辞令を以つて被控訴人等を解雇したのは、煽動的な言動を為し、会社当局と従業員との業務上の話合をした者を脅かし、従業員をして漸次会社当局と接触することを避けさせ又低能率で、控訴会社の円滑な業務運営に支障をきたす非協力者として、被控訴人等を運輸事業の公益性に鑑みて不適格な存在とみなしたからであり、且つ、控訴会社において新しく生れ出るであろう新組合の健全明朗を期待したればこそ、組合員多数者が組合の脱皮生長を念願して自主的に為した組合の解散に協力する意味で、新組合の結成前に被控訴人等を解雇したものである事実、及び労働協約(これは旧組合と控訴会社間の協約であるが、以下単に協約という。)第七条により、人事に関して組合と協議することになつている人事委員会なるものは、現実にはいまだ設けられていない事実が疏明される。

ところが、被控訴人等は「(一)委員会の議を経ずに直接総会に解散議案を附議しているから、組合規約(これは旧組合の規約であるが、以下単に規約という。)第十七条第二十条に違反し、右解散は無効である。(二)右総会はその議案が緊急を要する場合でないのに、正規の手続によらずに開催されたものであるから、その総会において為された決議による右解散は、規約第十八条に違反し無効であり、又解散の理由は組合内部の問題であつて、解散事項に適しないから、規約第九条に違反し、右解散は無効である。(三)解散決議の採決方法に欠陥があるから、右解散は無効であるすなわち、(1)動議でもない単なる発言によつて、解散賛否の採決に入つた。(2)解散派の総会出席組合員が採決にあたり威圧干渉を加えた。(3)右採決には解散派に議決権を有しない書記二名及び傍聴者一名が加つていた。もつともこの三名を除いても、法定の四分の三以上の解散賛成多数者のあつたことは、認める。(四)右解散は、被控訴人等の思想の自由及び労働者の団結権を侵害するために、控訴会社と通ずる組合の御用幹部の策動によるものであるから、憲法第十九条第二十八条民法第九十条等に違反し無効である。」と主張するから、これについて順次判断する。

(一)規約第十七条に「組合員総会には左の事項をかける。一、組合規約変更二、労働争議に関する事項三、収支予算竝びに組合費の額及び徴収方法四、前各項の外委員会において必要と認める事項。」又第二十条に「委員会には左の事項をかける。一、総会にはかるべき事項二、その他組合運営に関する事項。」との規定があり、右八月十三日の臨時総会における組合解散の議案が、予め委員会の議にかけられていなかつたことは、当事者間に争がないけれども、右規約の趣旨からいえば、委員会において総会附議事項として決定したものは、それがたとい軽微な問題であつても総会を拘束し、総会においては、その附議を拒否し得ないだけのことであつて、委員会の事前における決定事項でなければ、総会の附議事項とはなし得ないというのではなく、解散は組合規約の変更よりも重要事項であるから、総会附議事項となり得ることはいうまでもなかろう。(二)規約第十八条に「組合員総会の召集は、少くとも会日の五日前に、議案、日時、場所を組合員に通知する。但し、緊急を要する場合はこの限りでない。」又第九条に「組合員で左の各項に該当する場合は、組合員総会の決議によりこれを除名することができる。一、本組合の統制をみだした者二、本組合の名誉を毀損した者三、本組合に損害を与えた者。」との規定があり、右総会が規約第十八条本文の手続によらずに、但書の緊急を要する場合として、五日の猶予期間をおかず又解散議案の予告なしに召集された事実は、当事者間に争がないけれども、右総会の召集は前記疏明された事実によつて明かなように、緊急を要した場合であり、緊急を要する場合には、五日の猶予期間をおかず、且つ、議案を予告することなしに総会を開き得るのであつて、この緊急総会においては、解散議案を附議できないとの規約はないのであるし(もつとも、甲第一号証の組合規約によれば、総会の附議議案は、組合の存続を前提としているものといえるし、又総会の構成員である代議員は、事前に通知された議案について選出される建前であるから、組合自体の消滅を目的とする解散議案については、緊急総会の召集によらずに、原則総会の召集手続によることが望ましいとはいえるであろう。)、又解散事由については何らの規約とてなく、「組合員の四分の三以上の多数による総会の決議」とある労働組合法第十四条第三号の規定によることになつていたことは、当事者間に争がないのであるから、組合員の四分の三以上の多数による総会の決議があれば、解散し得るのであつて、総会における組合の解散決議の動機原因が、よしや当該組合員の除名事項に該当する組合内部の問題であるにしても、解散決議の効力にいささかも消長のあるものではない。(三)(1)規約上解散議案提出者の員数に制限がないのであるから、総会開催中解散議案の附議がよしや一部の者の発言によつて為されたものであればとて、その発言により解散議案の採択が成立した以上、これを議案として附議するのに、何らの欠陥もあろうはずはないのである。(2)解散派の総会出席組合員が採決にあたり威圧干渉を加えたとの事実については、その疏明がない。(3)議決権を有しない書記二名及び傍聴者一名が解散派に加つてはいたが、右三名を除いても解散派が法定の四分の三以上の多数であつた事実は、当事者間に争がないのである。(四)右解散が、被控訴人等の思想の自由及び労働者の団結権を侵害するために、控訴会社と通ずる組合の御用幹部の策動によるものでないことは、前記疏明された事実によつて明白である。

さすれば、解散は無効であるとする被控訴人等の前記主張は、到底これを採用するに由がなく、右解散は有効であるといわなければならない。

つぎに被控訴人等は「(一)控訴会社が昭和二十三年八月十六日附辞令を以つて為した被控訴人等の本件解雇は、専ら被控訴人等が組合の中堅幹部として組合運動に熱心であつたための、組合の弱体化をねらつたものであるから、労働組合法(旧)第十一条に違反し無効である。(二)人事に関しては、人事委員会を設けて組合と協議して定めなければならないのに、その手続を経ていないから、協約第十七条第七条に違反し、本件解雇は無効である。(三)本件解雇は、解雇手当の支給なくして為したものであるから、労働基準法第二十条に違反し無効である。(四)本件解雇は、組合の御用化をねらつた一部組合幹部と控訴会社との共謀策動による被控訴人等のはじき出しであり、且つ、組合の解散と新組合の結成との間の僅少三日の空白期間に乘じた不意打ちであるから、労働組合法第十一条の脱法行為であり、権利のらん用であり、憲法違反であつて、無効である。」と主張するから、これについて順次検討する。

(一)前記疏明された事実によつて明かであるように、本件解雇は、被控訴人等が組合の中堅幹部として組合運動に熱心であつたがためではなくて、さきに認定したように煽動的言辞を弄し、又従業員の労働能率低下の原動力であつて、控訴会社の円滑な経営を阻害する非協力者として、被控訴人等を運輸事業の公益性に鑑み不適格な存在とみなしたからである。(二)協約第十七条に「期間満了後も新協約を結ぶまでは、本協約は効力を有する。」又第七条に「会社は人事に関しては、人事委員会を設け、組合と協議して定める。」との規定があり、本件解雇については人事委員会の議を経なかつたことは、当事者間に争がないけれども、右協約は、前記疏明された事実によつて明かなように、組合が有効に解散したため当事者の一方の消滅によつて失効したものであるばかりでなく、人事委員会なるものは現実にはいまだ設けられておらず、且つ、解雇当時には組合自体が存在しなかつたのであるから、協約第七条の手続をふむに由がなかつたのである。(三)被控訴人等が労働基準法第二十条所定の解雇手当を現実に受取つていないことは、当事者間に争がないところであるけれども、控訴会社がその支給の通知を為したのにかかわらず、被控訴人等においてその受領を応諾しなかつたため、これを供託した事実もまた当事者間に争がないのであり、もとより解雇手当の支給を目して、控訴会社の持参債務とはいえないから、右供託は有効といわなければならない。(四)前記疏明された事実によつて明かなように、本件解雇は、被控訴人等をはじき出すために、控訴会社が組合の一部御用幹部と共謀策動したものではなく、又三日の空白期間をねらつた不意打ちでもなくて、控訴会社において、解散後新しく生れ出るであろう新組合の健全明朗を期待し、それを育生する意味で、新組合の結成前の適時に際し、過去において組合の健全明朗化を妨げた被控訴人等を解雇しただけのことである。

さすれば、解雇は無効であるとなす被控訴人等の前記主張は排斥の外はなく、右解雇は有効であるといわなければならない。

されば、解雇の無効を前提とする従業員たることの仮りの地位の設定、及び賃金の仮払を求める被控訴人等の本件仮処分の申請は、結局仮処分請求権の不存在に帰着し、右仮りの地位の設定を求める申請を認容した原判決は不当であり、又当審において附加した右賃金仮払の申請もまた失当であるから、民事訴訟法第三百八十六条第八十九条第九十三条第九十六条を適用して、主文のように判決する。

(裁判官 小野謙次郎 桑原国朝 森田直記)

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